業務の「属人化」と「標準化」とは
企業では、在籍する従業員によって日々さまざまな業務がおこなわれています。
それらの業務は、本来特定の人のみが対応するのではなく、社内の全従業員や担当する部署に在籍している従業員全員で対応するべきものですが、さまざまな要因によって特定の従業員のみが対応しているケースも少なくありません。
そのような状態であっても対応の仕方をまわりに共有したりマニュアルを整備できていれば問題ないのですが、知識の共有やマニュアルの整備がなされず、その業務のことを特定の人しかわからないような状態のことを業務の属人化と言います。
特定の業務が属人化してしまう原因や属人化によるデメリットなどについては後ほど詳しく紹介していきますが、業務の属人化は避けるべきです。
一方で、業務のフローや対応方法、ルールが明確でマニュアルが整備されており、誰が対応しても滞りなく業務を進められるような状態を業務の標準化と言います。
業務の属人化はなぜ起こる?4つの原因
企業がなるべく避けたい業務の属人化ですが、そもそも業務の属人化はなぜ発生するのでしょうか?
業務の属人化が発生する主な原因としては、
・業務を標準化するためのマニュアルが整備されていない
・知識やスキルを共有するためのリソースが確保できない
・属人化の解消が個人の評価につながりづらい
・社内での立場を守るためあえて属人化させている
の、4点があげられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
業務を標準化するためのマニュアルが整備されていない
業務を誰でもできるような状態にしておくにはマニュアルの存在が欠かせません。
そのため、マニュアルが用意されていなかったり、用意はされているものの情報が古かったり見やすく整備されていなかったりすると、担当者以外対応できず、業務が属人化してしまいます。
知識やスキルを共有するためのリソースが確保できない
業務の属人化を解消するには、担当者の知識やスキルを他の従業員にも共有し、従業員の知識やスキルをある程度均一にしなくてはいけません。
ただ、日々の業務が忙しく、知識やスキルを共有するためのリソースを確保できずにいると業務は属人化していきますし、知識やスキルを共有できずにいる期間が長くなればなるほど状況が悪くなっていきます。
属人化の解消が個人の評価につながりづらい
属人化を解消するための対応が評価につながりにくい点も、業務の属人化が進む要因の一つです。
ここまで紹介してきたとおり、業務の属人化を解消して標準化するためには、マニュアルの整備や知識・スキルの共有などの対応が欠かせません。
しかし、これらの業務は、契約数や売上などのように数字にあらわれるようなものではないため、個人の評価につながりづらいという側面があります。
評価につながりづらく、時間と手間のかかる大変な作業でもあるため、どうしても自ら進んで取り組もうとする人が少なく、誰も取り組まない状態が続いて属人化が進んでしまうわけです。
社内での立場を守るためあえて属人化させている
業務が属人化している原因の中でも特に厄介なのが、この原因です。
これまで紹介してきた原因はマニュアルが整備されていなかったりリソースを確保できないなど、「標準化したいけどできない」という状況でしたが、この原因の場合、担当者が自分の地位や立場を守るためにあえて業務を属人化させているため非常に厄介です。
属人化の解消には担当者の協力が欠かせませんが、社内での地位や立場を守るためにあえて属人化させていることを考えると業務の標準化に協力してくれない可能性があるため、他のケースに比べてより慎重に対応を進める必要があります。
業務の属人化による8つのデメリット・リスク
企業が業務の属人化を避けるべきなのは、属人化にはさまざまなデメリットやリスクがあるからです。
業務の属人化による主なデメリットやリスクとしては、
・業務の効率が下がる
・長時間労働につながりやすい
・従業員のスキルに差が生まれる
・製品やサービスの品質を高めることができない
・担当者が不在になると業務を円滑にまわせなくなる
・ミスやトラブルの早期発見が困難になりやすい
・業務がブラックボックス化してしまう
・後進を育成しづらくなってしまう
などがあげられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
1. 業務の効率が下がる
業務効率の低下は、業務の属人化によって引き起こされる大きなデメリットの一つです。
例えば、属人化している業務の担当者が、「その業務を得意としているわけではないが、他に対応できる人がいないため仕方なく対応している」という状態だった場合、当然その業務の効率は低くなります。
その業務がその他の業務に関連するようなものだった場合、他の業務の効率まで低下することになります。
2. 長時間労働につながりやすい
業務が属人化し、担当者以外対応できる人がいないという状態が発生すると、担当している業務を人に任せることができなくなります。
その場合に懸念されるのが担当者の長時間労働です。
業務が属人化すると他の人に対応してもらえなくなるのはもちろん、手伝ってもらうこともできないため、結局担当者がすべての作業をこなさなければならず、長時間対応することになるわけです。
属人化している業務が一つであればその他の業務を巻き取ってもらうことで長時間労働を回避できますが、複数の業務が属人化してしまっているとそういった対応もできません。
長時間労働が慢性化すると担当者が体調を崩してしまったり、不満を感じて退職してしまう可能性もあるため、業務の属人化によって懸念される大きなリスクの一つだと言えます。
3. 従業員のスキルに差が生まれる
業務が属人化している状態は、従業員のスキル向上につながらない非常にもったいない状態だと言えます。
従業員はさまざまな業務をこなすことで知識を深め、スキルを向上させていきますが、業務が属人化し、担当者しか対応できないような状態になってしまっていると、業務をこなすことができず、スキルを高めることもできません。
属人化している業務がスキルの向上につながりやすいものだったり、その企業・その業界で働く上でこなしておきたいような業務であればなおさらです。
業務の属人化により特定の業務に対応できる人と対応できない人が分かれてしまうと、成長を促すことができなくなってしまうだけでなく、従業員のスキルにも差が生じやすくなります。
4. 製品やサービスの品質を高めることができない
業務が属人化すると、その業務の品質を客観的に評価できなくなってしまいます。
その業務のことを理解している人・対応できる人が担当者だけになってしまうと、
・業務を適切におこなえているのか
・時間や手間をかけすぎてしまっていないか
などを適切に評価できなくなりますし、他の従業員が意見したりアドバイスできない状態が慢性化してしまうため、製品やサービスの品質を高めることが難しくなります。
5. 担当者が不在になると業務を円滑にまわせなくなる
業務が属人化することで発生する問題として非常に厄介なのが、担当者の休職や退職です。
病気や怪我、家庭の事情などによる休職や退職はどの職場でも発生しえるものですが、業務が属人化し、マニュアルが整備されていない場合、対応できる従業員がいなくなってしまうため業務を円滑にまわせなくなる可能性があります。
属人化している業務が、毎日対応が必要になるような業務や重要度の高い業務である場合は非常にリスクが高い状態だと言えるでしょう。
退職まで時間があるようなケースであればマニュアルを整備したり引き継ぎをおこなうなどして対処できますが、急な休職や退職だとそういった対応もできないため注意が必要です。
6. ミスやトラブルの早期発見が困難になりやすい
ミスやトラブルの早期発見が難しくなってしまう点も、業務の属人化による大きなデメリットの一つです。
特定の業務の内容を理解している・特定の業務に対応できる人が担当者だけという状態になると、他の従業員がその業務に関わることがなくなってしまうため、ミスやトラブルを第三者が発見することができません。
担当者がそのことを言い出せずに時間が経過してしまったり、担当者自身が問題を発見するのに時間がかかってしまった場合、取り返しのつかない状態になってしまう可能性もあります。
7. 業務がブラックボックス化してしまう
業務の属人化が慢性的になってしまうことで懸念されるのが、業務のブラックボックス化です。
業務が属人化されると他の従業員がその内容を正しく評価できなくなると紹介してきましたが、この状態が続くと、担当者がどういった作業をしているのか・どういった対応をしているのかを他者が全く把握できない状態になってしまいます。
その状態が業務のブラックボックス化になるわけですが、ブラックボックス化してしまうと、仮に不正がおこなわれていても気づくことができません。
法的に問題のある行為はもちろん、コンプライアンスに違反するような行為をおこなっている可能性もあるため注意が必要ですが、ブラックボックス化していることによってそのことに気づけないという大きなリスクがあります。
8. 後進を育成しづらくなってしまう
業務が属人化してしまっている状態は、マニュアルが整備されていなかったり、他の従業員に情報や知識を共有する環境が整っていない状態です。
そうなると、当然ですが後進を育成することもできません。
後進を育成できない状態が続くと企業はどんどん高齢化し、その状態が悪化すると、「下の世代に仕事を任せられない…」など、企業にとって致命的な環境になることも懸念されます。
業務の属人化を解消して標準化する5つのメリット
先ほど紹介した属人化によるリスクを避けるためにも企業は積極的に業務の標準化に取り組むべきですが、業務の標準化は、属人化によるデメリットやリスクを避けられるようになるだけでなく、
・業務を効率化できる
・従業員のスキルの向上につながる
・製品やサービスのクオリティを高められる
・休職や退職に対応できる
・社内にノウハウを蓄積できるようになる
など、さまざまなメリットをもたらしてくれます。
業務の標準化によって期待できるようになるさまざまなメリットについて解説していきます。
1. 業務を効率化できる
業務が属人化すると、ボトルネックの状態が発生し、その後の業務にも影響してしまうようになります。
そうなると全体的に業務の効率も低下してしまうわけですが、属人化を解消して標準化することでボトルネックの状態を解消できるようになり、業務を効率化できるようになります。
また、業務が属人化するとどうしてもその業務の担当者の負担が増してしまいがちですが、標準化することでその問題の解消につながるのもメリットの一つです。
業務過多な状態は長時間勤務につながりがちで、体調を崩す原因にもなってしまいかねないので、そのリスクに対処できるのは非常に大きなメリットだと言えるでしょう。
2. 従業員のスキルの向上につながる
属人化されている業務のマニュアルを整備し、どの従業員でも対応できる状態を整えておくと、知識やスキルを共有できるようになります。
それによって期待できるようになるメリットが、従業員のスキルの向上です。
これまで対応できなかった業務に対応できるようになることでその業務に対する知識とスキルが身につきますし、業務をこなしていくなかでの経験を通してビジネスマンとしての成長も期待できるようになります。
業務が属人化してしまっている状態を解消して標準化すると、どの社員をどこに配属させても業務をしっかりとこなせるようになりますし、一定の成果をあげられるようにもなります。
これにより、さまざまな企業が直面している人材不足の問題も解消できるようになるため、この点も属人化の解消による大きなメリットの一つだと言えるでしょう。
3. 製品やサービスのクオリティを高められる
業務が属人化してブラックボックス化すると、他の従業員がその業務の内容を正しく評価できなくなってしまいます。
それによって懸念さされるのが製品やサービスのクオリティの低下ですが、属人化されている業務を標準化して他の従業員が業務の内容をしっかりと把握し、評価できるようになることで、製品やサービスの品質の向上も期待できるようになります。
業務内容を把握できる人や評価できる人が担当者のみになってしまうと間違いを指摘することができませんし、意見を出し合うこともできません。
そうなると製品やサービスのクオリティを保つのは難しくなりますし、向上させるのも難しくなりますが、標準化によって間違いを指摘したり意見を出し合えたりする環境が整うことで、製品やサービスをブラッシュアップしていけるようになるわけです。
製品やサービスのクオリティは会社の評判や売上に関わる部分でもあるので、これも属人化の解消によってもたらされる大きなメリットになります。
4. 休職や退職に対応できる
業務が属人化して担当者以外が対応できない状態が発生した場合、担当者の急な休職や退職に対応できなくなってしまいます。
その業務がその他の業務にも影響を及ぼすような重要な業務だったりすると通常の営業を続けることすら困難になってしまう可能性があるため注意しなくてはいけませんが、属人化している業務を標準化するとこの問題にもしっかりと対応できるようになります。
休職や退職はいつ発生するかわからないため、従業員の急な休職や退職にあわてないためにも業務の標準化への取り組みはなるべく早く進めておくべきだと言えるでしょう。
5. 社内にノウハウを蓄積できるようになる
日々の業務によって得られるノウハウは、従業員はもちろん、企業にとっても大きな財産になります。
ノウハウを活かして製品やサービスの品質を向上させることで顧客の満足度も向上し、会社の評価が高まりますし、売上アップも期待できるようになります。
ただ、業務が属人化していると、担当者が持っているノウハウを社内に共有することができません。
担当者が退職してしまった場合はそのノウハウも失われてしまうため、企業にとって大きな損失だと言えますが、業務の標準化はこの問題にも対応可能です。
また、これまで属人化されていた業務を標準化して他の従業員が対応できるようになることでノウハウを蓄積し、共有する環境が整備され、より多くのノウハウが蓄積されていくというメリットもあります。
業務の属人化を解消して標準化する方法
業務の標準化への取り組みをスタートさせる上で把握しておきたいのが、標準化の具体的な進め方です。
業務の属人化を解消して標準化する際の主な工程は以下のとおりです。
・ステップ1. 属人化への理解を深めて標準化に取り組める環境を整える
・ステップ2. 属人化されている業務の内容を洗い出す
・ステップ3. マニュアルを整備する
・ステップ4. マニュアルを公開してPDCAをまわす
・ナレッジシステムの構築も並行して進める
業務の標準化を成功させるには、この手順に沿って適切に進める必要があります。
それぞれの工程について詳しく解説していきます。
ステップ1. 属人化への理解を深めて標準化に取り組める環境を整える
業務の属人化の解消には従業員の協力が必要不可欠です。
ただ、属人化の解消は時間と手間のかかる作業であり、地味な作業であるため、何の説明もなしにいきなり進めようとしてもうまくいくことはありません。
業務の標準化を進める場合は、属人化してしまっている今の状況や属人化によるデメリット、リスク、標準化によるメリットなどを従業員にしっかりと説明し、属人化の解消や業務の標準化に対する社内での理解を深めるところからスタートさせるようにしましょう。
そうすることで従業員が積極的に取り組んでくれるようになりますし、協力してくれるようになります。
また、取り組みを進めるため環境を整えることも重要です。
高まった従業員のモチベーションを低下させてしまわないためにも、対応するための時間的なリソースや人的リソースを確保するなど環境の整備も忘れずに進めるようにしてください。
ステップ2. 属人化されている業務の内容を洗い出す
社内での属人化に対する理解を深め、標準化への取り組みを進めるための環境を整えることができたら、属人化が懸念される業務をリストアップし、それらの業務の内容を洗い出ししていきましょう。
ここでの業務内容の洗い出しが甘くなってしまうと属人化を解消することできませんし、その後の対応を進める意味がなくなってしまうので、対象となる従業員の協力を得ながらしっかりとヒアリングするようにしてください。
ステップ3. マニュアルを整備する
業務内容の洗い出しが完了したら、担当者に協力してもらいながらマニュアルの整備を進めていきます。
業務の属人化を解消して標準化するには、担当者がいない状況であっても他の従業員が問題なく対応を進められる状況にしなくてはいけませんが、そのために必要になるのがマニュアルです。
対象となる業務の数や業務の内容のもよりますが、いきなり完璧なマニュアルを作ろうとするとかなり時間がかかってしまうので、まずは一連の作業の流れを簡潔にまとめるなど簡易的なマニュアルを作成し、そこから徐々に整備していくという方法がおすすめです。
ステップ4. マニュアルを公開してPDCAをまわす
マニュアルの整備が完了したら、いよいよそのマニュアルを公開して運用していきます。
担当者にサポートしてもらいつつ、マニュアルの内容を参考にしてもらいながら他の従業員に作業してもらい、少しずつ属人化の状態を解消していきましょう。
ただ、いきなり完璧なマニュアルを作ることはできないので、運用していく中で担当者や作業者から意見をもらいながらマニュアルを少しずつ改善していき、クオリティが高くより使いやすいマニュアルになるよう整備していくようにしましょう。
ナレッジシステムの構築も並行して進める
業務の属人化を解消して標準化を進める際の大まかな流れは紹介したとおりですが、これらの作業として並行して進めておきたいのがナレッジシステムの構築です。
ナレッジシステムとは、それぞれの従業員の知識やノウハウを社内全体で共有するためのシステムです。
ナレッジシステムを構築しておくことで企業にとっての財産である知識やノウハウをしっかりと共有できるようになりますし、知識やノウハウを共有できる環境を整えておくことで業務の属人化も防げるようになります。
従業員が自ら進んで知識やノウハウを共有するにはシステムの使いやすさが重要になってくるので、知識やノウハウを気軽に共有できるかどうかを意識しながらシステムを構築するようにしてください。
まとめ
業務の属人化にはさまざまなデメリットやリスクがあります。
もし今の時点で特定の業務が属人化されてしまっていると感じるのであれば、早急に標準化を進めなくてはいけません。
属人化の解消は手間がかかりますし、リソースも必要になりますが、属人化を解消して評価することで、
・業務を効率化できる
・従業員のスキルの向上につながる
・製品やサービスのクオリティを高められる
・休職や退職に対応できる
・社内にノウハウを蓄積できるようになる
など、さまざまなメリットが期待できるようになるので、ぜひ取り組んでみてください。