チェンジマネジメントとは
チェンジマネジメントは、企業が組織を大きく変化させたりこれまでの経営戦略を大きく改革するときなどに用いられるマネジメント手法の一つです。
変革や改革は企業にとって非常に難易度の高いチャレンジだと言えますが、その変革や改革を成功へと導くためのマネジメント手法としてチェンジマネジメントが用いられています。
チェンジマネジメントの始まり
企業の変革や改革に用いられるチェンジマネジメントは、1990年ごろのアメリカで誕生しました。
チェンジマネジメントが登場するまではBPR(Business Process Re-engineering)、いわゆる業務プロセス改善という考え方が用いられていました。
BPRは業務プロセスの抜本的な見直しをおこない、再構築していくというものです。
ただ、BPRに取り組んだ企業のうちの実に70%以上が取り組みに失敗し、思うような成果を得られていないという状況でした。
そんな状況の中、多くの企業やコンサルティング会社がこれまでの経験や失敗を踏まえながら作り上げたのが「チェンジマネジメント」です。
チェンジマネジメントが注目されている理由
数あるマネジメント手法のうちの一つにすぎないチェンジマネジメントが注目されているのは、企業で働く従業員の心理的な障壁や抵抗を和らげるマネジメント手法だったからに他なりません。
BPRは、業務プロセスの改善にともなう従業員の心理を汲み取れないていない業務プロセスの改善方法でした。
業務プロセスを改善するということは、これまでのやり方が大きく変わるということですが、企業で働く従業員の中にはその変化を嫌う人もいます。
BPRでは、そういった人の存在や人間の心理を理解できていなかったため失敗する企業が後を絶たなかったわけですが、チェンジマネジメントは現場で働く従業員の共感を得ながら変革や改革を勧めていくマネジメント手法なので、従業員の心理的抵抗による失敗が起こりづらいという特徴があります。
これは企業が変革や改革に取り組む上で非常に重要なポイントになるため、チェンジマネジメントの注目度が高まってきているわけです。
チェンジマネジメントのレベル
企業の変革や改革を成功に導くマネジメント手法として注目を集めているチェンジマネジメントですが、チェンジマネジメントには、
・個人単位でのチェンジマネジメント
・プロジェクト単位でのチェンジマネジメント
・組織単位でのチェンジマネジメント
という3つのレベルがあります。
チェンジマネジメントは、レベルによってアプローチ方法などが異なってくるため、これらのレベルに対しての理解も必要不可欠です。
チェンジマネジメントのそれぞれのレベルについて、詳しく解説していきます。
個人単位でのチェンジマネジメント
個人単位でのチェンジマネジメントでは、従業員一人ひとりに変化を促していきます。
BPRの失敗事例でも紹介したとおり、変革や改革に抵抗を感じる従業員は少なくありません。
これまでのやり方を大きく変えるとなると、せっかく覚えたやり方をリセットして新しいやり方を覚えたり、新しいことを覚えなくてはならないため、どうしても抵抗を感じる人が多くなってしまうわけです。
個人単位でのチェンジマネジメントでは、従業員一人ひとりにアプローチし、その抵抗感をやわらげ、変革や改革をよりスムーズに進められる土台を整えていきます。
プロジェクト単位でのチェンジマネジメント
プロジェクト単位でのチェンジマネジメントでは、対象となるプロジェクトに関わっている従業員に対してアプローチしていきます。
特定のプロジェクトのやり方を大きく変える場合、特定の従業員だけの意識を変えても意味がありません。
そのプロジェクトに関わるすべての従業員の意識や考え方を変化させることでチーム一丸となってプロジェクトの改革に取り組めるようになるので、プロジェクトに関わるすべての従業員に対して変化を促していきます。
組織単位でのチェンジマネジメント
チェンジマネジメントのレベルの中で最も規模の大きいものが、この組織単位でのチェンジマネジメントです。
変化し続ける市場やユーザーの動きを捉え、競合他社との競争に打ち勝つためにおこなわれる取り組みで、個人単位のチェンジマネジメントやプロジェクト単位のチェンジマネジメントで変革や改革をおこなうための土台を作った上で取り組むレベルのチェンジマネジメントとなっています。
土台を整え、組織単位でのチェンジマネジメントに取り組めるようになった場合、その企業は市場や時代の変化に順応できる企業、競争力の高い企業になり、今後より成長していく企業へと生まれ変わります。
チェンジマネジメントの成功を阻害するハードル「チェンジモンスター」とは
チェンジマネジメントは企業の変革や改革を成功に導いてくれる優れたマネジメント手法ですが、必ずしも成功するわけではありません。
チェンジマネジメントの考え方を取り入れたとしても失敗することはあります。
そして、チェンジマネジメントの成功を阻害するハードルとしてあげられるのが、
・タコツボドン
・ウチムキング
・ノラクラ
・カイケツゼロ
などのチェンジモンスターです。
チェンジモンスターは有名コンサルタントであるジーニー・ダック氏が提唱する、チェンジマネジメントの阻害要因をわかりやすくしたものです。
それぞれ詳しく解説していきます。
タコツボドン
タコツボドンは、自分の殻にこもってしまっている状態の従業員を指します。
社内での自分の領域にこもり、他の領域にいる従業員の声や意見に耳を傾けず、交流をもとうとしないため、変革や改革において非常に厄介な存在だと言えます。
ウチムキング
ウチムキングは、自分が所属するチームや部署などの評価ばかりを気にする従業員を指します。
外からの視点や市場のニーズ、社会や人々の考え方の変化などに目を向けずものごとを考えるタイプの従業員であるため、変革や改革への取り組みに反発するなど非協力的になる傾向があります。
ノラクラ
ノラクラは、何かと理由をつけて面倒なことを避けるタイプの従業員です。
面倒なことをのらりくらりと避ける様から、このような名称で呼ばれています。
協力する姿勢を見せず、他の従業員のモチベーションにも影響をあたえる存在であるため、企業が変革や改革を進める上での非常に厄介な存在だと言えるでしょう。
カイケツゼロ
カイケツゼロは、課題や問題点について指摘しておきながら一切解決策や打開策を提示しないタイプの従業員です。
解決策を示さないだけでなく、問題や課題を解決するために行動することもありません。
他の従業員のモチベーションを下げたり、一生懸命取り組んでいる従業員を不快にさせる傾向があります。
チェンジマネジメントの8つのプロセス
チェンジマネジメントには決まったプロセスがあります。
ただ闇雲に取り組んでも成果にはつながらないので、そのプロセスに沿って進めるようにしなくてはいけません。
チェンジマネジメントの具体的なプロセスは以下のとおりです。
1. 危険意識を明確化して共有する
2. 変革や改革に取り組むためのチームを編成する
3. ビジョンを明確にして戦略を練る
4. 考えたビジョンをチームで共有する
5. 従業員が自発的に行動できる・行動したくなる環境を整える
6. 短期的な目標を達成させる
7. 達成した短期的な目標を参考に変革・改革を進める
8. 新しい手法を企業の文化として定着させる
それぞれのステップについて詳しく解説していきます。
1. 危険意識を明確化して共有する
変革や改革に従業員の意識を向けるには、「このままではマズい」「このままでは生き残れない」という意識を持ってもらうことが大切です。
そのため、まずは危機意識を明確化し、共有していくところから始めていきます。
危機意識を持ってもらうには従業員を納得させる必要があるので、市場の変化などについてはもちろん、業績の変化や今後の予想なども交えながら共有していくようにしましょう。
2. 変革や改革に取り組むためのチームを編成する
危機意識を明確化して従業員に共有することができたら、変革や改革に取り組むためのチームを編成していきます。
チームのメンバーは誰でもいいわけではありません。
変革や改革を成功させるのは非常にハードルが高く、さまざまな困難や問題、トラブルが発生するものなので、プロジェクトをしっかりと遂行できる人を中心に編成していくようにしましょう。
3. ビジョンを明確にして戦略を練る
チームを編成したら、変革や改革をおこなうことでどういった組織になっていきたいかのビジョンを明確にし、そのビジョンを達成するための戦略を練っていきます。
ビジョンを設定するときは、「本当に達成できるか」「本当に実現できるか」を意識しながら設定し、戦略を練っていくようにしましょう。
4. 考えたビジョンをチームで共有する
ビジョンと戦略が決まったら、ビジョンをすべての従業員に周知し、共有していきます。
変革や改革はすべての従業員が同じ方向を向いていないと失敗してしまうので、ビジョンの共有は必須です。
モチベーションを高めることもできるので、しっかりと周知するようにしてください。
5. 従業員が自発的に行動できる・行動したくなる環境を整える
ビジョンを共有したらいよいよ施策を展開していくことになりますが、ここで重要になるのが、従業員が自発的に行動できる・行動したくなる環境づくりです。
変革や改革は従業員の協力がなければ絶対にうまくいきません。
ただ、環境が整っていないと行動したくてもできなくなってしまうので、「行動したことを評価に加える評価制度を設ける」など、行動できる・行動したくなる環境を整備しましょう。
6. 短期的な目標を設定する
変革や改革を成功させるには従業員や担当者のモチベーション維持が必須になるので、短期的な目標を設定していきます。
達成しやすい短期的な目標を設定し、その目標達成に向けての施策を考え、実施していきましょう。
7. 達成した短期的な目標を参考に変革・改革を進める
設定した短期的な目標を達成したら、その目標を達成するのにおこなった施策やかかった時間などのデータを参考に、次の目標を設定していき、変革や改革を進めていきましょう。
このように、最終的なゴールにつながる短期的な目標を設定し、クリアして、また次の目標を設定するというサイクルを繰り返していくことで、従業員のモチベーションを維持したまま取り組みを進められるようになります。
8. 新しい手法を企業の文化として定着させる
最終的なゴールに向かって色々な施策を実施していると、有効な方法が見つかることが多々あります。
チェンジマネジメントの最終プロセスは、その有効な方法を企業の文化として定着させることです。
例えば、「社内のファイルやデータの共有をクラウドツールでおこなうようになったことで、情報をスムーズに共有できるようになり、業務効率化につながった」など、良い結果やその良い結果につながった取り組みは、積極的に社内で共有し、文化として根付かせるようにしましょう。
そうすることで、企業の体質が変わっていき、より良い企業へと成長していきます。
チェンジマネジメントの成功事例
実際にチェンジマネジメントを活用して変革や改革に取り組む際に参考にしたいのが、チェンジマネジメントの成功事例です。
成功事例の内容をチェックすることで成功の秘訣が見えてくるので、自社で変革や改革に取り組む際も、それらを積極的に取り入れましょう。
ここでは、チェンジマネジメントの成功事例を3つ紹介していきます。
日産自動車
1990年代、なかなか売上が伸びず低迷していた日産。
その状況を打破しようと社長のカルロス・ゴーン氏がおこなったのが、「リバイバルプラン」というチェンジマネジメントです。
リバイバルプランでは、社内の「無駄」をすべて見直し、コストカットを徹底。
稼働率の悪い工場を思い切って閉鎖したり、大規模なリストラを実施するなどして1兆円規模の経費削減を実現しました。
リストラを含む改革は従業員からの反発が強く、失敗する可能性も高いと言われていますが、カルロス・ゴーン氏は日産が変わる必要性を説き、今後のビジョンを示すことでチェンジマネジメントを成功させました。
アドビシステムズ日本法人
PhotoshopやIllustratorなどクリエイター向けの定番ツールを開発し、提供しているアドビシステムズの日本法人も、チェンジマネジメントを活用して改革に取り組んだ企業の一つです。
時代の変化とともに顧客のニーズも変わり、従来のパッケージ型の販売モデルからサブスクリプション型のモデルへの移行を迫られていたアドビシステムズの日本法人。
ビジネススタイルのあり方そのものを変更するような大きな改革となったため、チェンジモンスターによるさまざまな問題や困難な場面がありましたが、自律を核にしたチェンジマネジメントで見事チェンジモンスターに打ち勝ち、ビジネスモデルの改革を成功させました。
Google
社内インフラに依存し、さまざまな問題や課題を抱えていたGoogle。
そこで、社内インフラから脱却し、クラウド型のビジネスツールである「Google Cloud」への移行を決意。
チェンジマネジメントでは従業員に変革や改革の重要性や必要性を説き、理解してもらうことが重要だと解説してきましたが、Googleの担当者は、誰でも理解できる簡潔でわかりやすい言葉で丁寧に説明し、従業員の理解を得ることに成功しました。
また、変革や改革によって従業員が受ける影響を正確に把握し、不満がたまるリスクを回避するように努めたことが成功につながったとされています。
まとめ
企業が自社のビジネスや組織を変革したり改革するのを成功に導いてくれるマネジメント手法の一つである、チェンジマネジメントについて詳しく紹介してきました。
企業が厳しい競争を生き残るには成長し続けるしかありませんが、その成長に欠かせないのが変革や改革です。
チェンジマネジメントは、失敗するケースも少なくない企業の変革や改革を成功させるために取り入れるべきマネジメント手法なので、今回紹介した内容を参考にしながら、チェンジモンスターに負けないビジネスや組織の変革・改革への取り組みを進めていきましょう。