スターバックスは接客用のマニュアルがない珍しい飲食店
大人気のコーヒーチェーンであるスターバックスですが、スターバックスには接客用のマニュアルがありません。
個人経営の小さな飲食店の場合は働くスタッフが少ないということもあって先輩スタッフや店長などが口頭で指導するのが一般的ですが、スターバックスのような全国に店舗を展開しているような大規模のチェーン店の場合は接客マニュアルを用意するのが一般的です。
その主な理由としては、「提供するサービスの内容や質の統一化」があげられます。
マニュアルはその業務をおこなうときのお手本となるもので、基本的な対応方法や心構えなどが記載されており、この内容に従いながら接客することで、店舗数やスタッフ数の多いチェーン店でも提供するサービスの内容や質の水準を一定に保つことができるので、多くの店舗が接客マニュアルを導入し、活用しているわけです。
ただ、紹介したとおり、スターバックスには接客用のマニュアルが用意されていません。
通常であればこの規模のチェーン店で接客マニュアルを作成しない・用意しないというのは評判や顧客の満足度を低下させかねない致命的な行為になってしまいかねませんが、スターバックスは接客マニュアルに頼ることなく、高いレベルの接客を提供し、顧客を満足させ続けています。
スターバックスに接客用のマニュアルがない理由
スターバックスは接客用のマニュアルが用意されていないかなり珍しいタイプの飲食店だと紹介してきましたが、そこで気になるのが、接客用のマニュアルを用意しない理由について。
スターバックスに接客用のマニュアルがない主な理由としては、以下の2点があげられます。
・スタッフの自主性や創意工夫を引き出したいから
・マニュアルの代わりに長期間の研修が用意されているから
それぞれの理由について、詳しく解説していきます。
スタッフの自主性や創意工夫を引き出したいから
スターバックスが接客用のマニュアルを導入したい理由の一つ目が、「スタッフの自主性や創意工夫を最大限引き出したいから」というものです。
接客マニュアルを活用したスタッフの教育方法には、接客の内容や質を一定以上に保つことができるという大きなメリットがあります。
ただ、その一方で、マニュアルが用意されていることで「マニュアルの内容さえ把握していればいい」「マニュアル通りの接客を実践しておけば問題ない」という思考に陥りやすくなってしまうというデメリットもあります。
この思考になると、スタッフは自主的に動かなくなってしまいますし、工夫をこらすことを避けるようになってしまいかねません。
スターバックスでは、スタッフが自主的に動き、工夫をこらし、一生懸命考えて対応したり接客することがホスピタリティの実現につながると考えているので、あえて接客用のマニュアルを導入せず、スタッフが自主的に動ける環境や工夫をこらせる環境を用意してあげているわけです。
臨機応変に対応できるようにしたいから
臨機応変な対応も、スターバックスが接客マニュアルを導入したい理由の一つです。
接客業をしていると、毎日のようにイレギュラーなことが起こります。
このイレギュラーな事態にどう対応できるかが店の評判や顧客の満足度に大きく影響するわけですが、接客マニュアルを用意し、「マニュアル通りの接客を実践しておけば問題ない」という思考が身についてしまうと、イレギュラーな事態に冷静に対応するのが難しくなってしまいます。
スターバックスでは、そのような事態を避け、イレギュラーなケースにもスタッフが臨機応変かつ冷静に対応できるようにしたいと考えているので、あえて接客マニュアルを導入せずに店舗運営を続けているわけです。
実際、スターバックスのスタッフがイレギュラーなケースに臨機応変に対応した事例として、お客さんが築地の市場で購入した魚をスタッフの判断によって店舗で預かったというケースもあります。
対応の是非については議論の余地があるかもしれませんが、顧客のイレギュラーな要望をすべて突っぱねるのではなく、臨機応変かつ柔軟に対応できるスタッフを育てるため、スターバックスではあえて接客マニュアルを導入しないという対応をとっているわけです。
接客マニュアルがなくても顧客の満足度が低下しない理由
スタッフの自主性や創意工夫を引き出しつつ、イレギュラーな場面にも臨機応変に対応できる人材を育てたいという思いからあえて接客マニュアルの導入を避けているスターバックスですが、不思議と悪い評判は聞こえてきません。
むしろ、優れた接客を提供してくれる店舗という印象すら受けます。
そこで気になってくるのが、接客マニュアルがなくても顧客の満足度が低下しない理由について。
主な理由としては、
・接客マニュアル以外のマニュアルが用意されている
・ルールが厳しく定められている部分もある
・長時間の研修を受ける必要がある
の、3点があげられます。
それぞれの理由について詳しく解説していきます。
接客マニュアル以外のマニュアルが用意されている
スターバックスには接客マニュアルこそありませんが、その他のマニュアルについてはしっかりと用意されています。
主なマニュアルとしてあげられるのが、
・パートナーガイド
・グリーンエプロンブック
・ラーニングジャーニーガイド
です。
パートナーガイドはスターバックスで働く上での基本的なルールがまとめられたもので、ドレスコードや髪型など身だしなみの部分についてルールなどが記載されています。
グリーンエプロンブックにはスターバックスの経営理念が書かれていて、スターバックスの一員として働く上での考え方などを学ぶことができます。
ラーニングジャーニーガイドは新人教育に用いられるマニュアルです。
接客マニュアルはありませんが、その他のマニュアルが充実しているため、質の高いサービスを提供できているわけです。
ルールが厳しく定められている部分もある
スターバックスにはマニュアルに記載されている内容以外にもさまざまなルールが設けられており、各スタッフがそれらを遵守しながら働くことで高いレベルのサービスや製品を提供できるようになっています。
中でも厳しく定められているのが、提供する製品に関するルールです。
スターバックスではさまざまなドリンクやフードが提供されていますが、それらの製品を作る際のレシピやルールはかなり厳しく定められています。
これは、店舗や対応するスタッフによって製品の味が変わるのを防ぐためのものですが、重要な部分についてはしっかりとルールが定められているため、評判や顧客の満足度が下がってしまうようなことを避けられているわけです。
長時間の研修を受ける必要がある
長時間の研修が用意されている点も、接客マニュアルがなくてもスターバックスの顧客の満足度が低下しない理由の一つです。
スターバックス以外の飲食店にも入社時の研修を設けているところはありますが、1〜2日ほどで終わるところがほとんどです。
一方、スターバックスの入社時の研修は80時間以上にも及びます。
入社時におこなわれるこの長時間の研修によってスターバックスのスタッフとして働く上での基本を身につけられるようになっているので、接客マニュアルがない状態でも、高いレベルで接客をこなせるわけです。
スターバックスの教育方針から学べる2つのこと
接客に対する顧客の満足度が高く、自主性や創意工夫を重んじる教育方針で離職率も低いスターバックス。
今回紹介してきたスターバックスの教育方針からは、
・マニュアルを用意しなくてもいいわけではない
・何でもかんでもマニュアル化すればいいわけではない
など、さまざまなことを学ぶことができます。
これらは、業界を問わず、どの企業でも参考にできるポイントばかりです。
「人材育成に力を入れていきたい」と考えている企業にとっては、特に参考になるはずです。
それぞれ詳しく解説していきます。
マニュアルを用意しなくてもいいわけではない
「スターバックスには接客マニュアルがない」と聞くと、「あのスタバが接客マニュアルを導入していないなら、うちも用意しなくていいのでは?」と考えてしまいがちですが、単純にその方針をマネると接客のクオリティが下がってしまう可能性があるので注意が必要です。
紹介してきたとおり、スターバックスでは80時間にも及ぶ入社時の研修カリキュラムが用意されています。
同じように充実した研修カリキュラムを用意できるのであれば接客マニュアルを用意しなくてもいいかもしれませんが、80時間にも及ぶ研修カリキュラムを用意するのはそう簡単ではありません。
また、実施するには人員的な余裕と時間的な余裕を確保する必要もあります。
このような環境やカリキュラムを用意できるのであればマネしても問題ありませんが、その対応が難しいのであれば、しっかりとマニュアルを用意しておくべきだと言えるでしょう。
何でもかんでもマニュアル化すればいいわけではない
企業が業務マニュアルの整備や活用に取り組む場合、つい何でもかんでもマニュアル化してしまいがちですが、そのような対応も避けるべきです。
日々の業務の中にはマニュアルにするのに向いている業務もあればそうでない業務もあります。
マニュアルにするのに向いていない業務までマニュアル化してしまうと、臨機応変な対応ができなくなったりイレギュラーなケースに冷静に対応できなくなってしまう可能性があるので注意が必要です。
どちらかと言えば接客はマニュアルを用意しておくべき業務だと言えますが、イレギュラーなケースが発生する可能性の高い業務でもあるので、作成する際は、実際に起きたイレギュラーなケースと対応方法に関する情報も記載しながらマニュアルを作成するようにしましょう。
まとめ
接客マニュアルが用意されていない点を深掘りし、スターバックスの接客の秘密や教育方針について解説してきました。
業務マニュアルは「とにかく用意すればいい」と思われがちですが、そう単純なものではありません。
それは、今回紹介したスターバックスの事例からも見えてきます。
なお、「あの、スターバックスがマニュアルを導入していないのであれば、その方針をマネすればいい」というわけでもなく、重要なのはスターバックスの事例から何を学ぶかです。
企業が業務マニュアルを作成して用意する際は、何でもかんでもマニュアル化するのでなく、マニュアルを用意するべき業務とそうでない業務をしっかり区別することが大切です。
また、自主性を重んじたり創意工夫を発揮するのは素晴らしいことですが、そのためには教育によってしっかりと基礎を身につけてもらい、その上で自主性や創意工夫に目を向けてもらうという意識が重要になります。
実際、スターバックスでも接客以外の部分にはマニュアルを導入していますし、80時間という長時間の基礎研修も用意されているので、スターバックスの事例や考え方を参考に、まずはマニュアル化するべきところとしなくてもいいところを区別するところから始めてみてはいかがでしょうか?