日常生活や仕事など様々な場面において、「ヒヤリハット」といった言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。「ヒヤリハットって何?」「起こる原因は?」と疑問に思っている方もいるかと思います。
この記事では、ヒヤリハットの概要や起こる原因、さらにヒヤリハットの報告書作成時のポイントや対策まで解説していきます。ヒヤリハットやその対策を知りたい方などはぜひ参考にしてください。
ヒヤリハットは労働災害の一歩手前
ヒヤリハットとは「ヒヤリとした」「ハッとした」を組み合わせた言葉であり、危ないことが起きたものの事故につながらなかった出来事のことです。
業種や職場環境などに問わずヒヤリハットは存在しており、それを予見することは難しいとも言われています。
しかし、ヒヤリハットで終わり事故につながらなかったからといって問題がないわけではありません。労働の場においてのヒヤリハットは労働災害の一歩手前の状態であり、「危なかった」で終わらせるのはとても危険です。
そのため、ヒヤリハットが「なぜ起きたのか?」など対策も含めて考えることが重要と言われています。ヒヤリハットは安全管理におけるリスクマネジメントの観点からも、多くの企業において重要視されているのです。
インシデントやアクシデントとは何が違う?
ヒヤリハットと似た意味のある言葉として、「インシデント」「アクシデント」といった言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。それぞれヒヤリハットと似た言葉のため混同してしまうこともありますが、全く別の意味を持っています。
インシデントとは、実際に発見したものに限らず事故が起きる可能性がある状態のことを指します。まだ誰も認識していない状況であっても、事故が起きるリスクが潜んでいる場合はインシデントに該当します。
また、アクシデントはすでに起きてしまった事故そのものを指します。そのため、事故に至らなかった場合がインシデント、事故に至ってしまい大きな問題となったのがアクシデントとそれぞれヒヤリハットとは違いがあるのです。
ヒヤリハットの報告書は6つのポイントを意識して書く
ヒヤリハットを報告する時には、報告書も併せて作成します。以下6つのポイントを意識して書くとよいでしょう。
ヒヤリハットが起きてすぐに報告書を作成する
ヒヤリハットが起きたら、報告書はすぐに作成します。これは、詳細な内容を報告書に書くためです。時間が経ってしまうと、内容をどんどん忘れてしまい曖昧な内容でしか報告書が作成できなくなります。
曖昧な記憶で報告を作成してしまうと、今後の対策や予防に活かせません。詳細を覚えているうちに作成するのが理想です。しかし、すぐに報告書の作成が難しい場合は、メモをとるクセをつけておくことをおすすめします。メモを元に報告書を作成できるため、曖昧な内容ではなく詳細な内容にて報告書の作成が可能になります。
5W1Hを意識しながら情報を整理して書く
報告書を作成する時には、5W1Hを意識しながら書くとよいでしょう。情報を漏れずに書くことができ、情報の整理も行えます。5W1Hの例としては、以下の通りです。
・When:いつ・日時
・Where:どこで・場所
・Who:誰が
・What:何が起きたか
・Why:なぜ起きたか・原因
・How:どのように対応したか
客観的な視点に基づき事実を書く
報告書を作成する時に、当事者の心情などを盛り込んでしまい主観的な視点で書いてしまうことがあります。そもそも報告書は再発予防や事故防止を目的として書くため、客観的な視点に基づき事実を書くことが重要です。
また、報告書を書く時に「なぜ起きたのか・原因」の項目は、状況によっては推測を元に書くケースもあります。そのため、客観的視点に基づき推測して書いたとわかるように「おそらく〜であると思われる」と書き、併せて推測した根拠も書くとよいでしょう。
原因を考察する
報告書では事実を報告するだけではなく、原因を考察することも重要です。そして、その原因は1つだけとは限らず、複数の要因が重なりヒヤリハットが起こることもあるでしょう。
そのため、考えられる範囲で様々な原因を考察しましょう。原因をしっかりと考察することで、今後の再発防止に役立てるためのポイントにもなります。
具体的な対策や改善策を提案する
原因を考察したら、それで終わりにはせず具体的な対策や改善策を提案します。例を挙げると、マニュアル通りに作業ができていない事例ではマニュアルの見直しをするなどといった対策をとりましょう。
このようにヒヤリハットが起きた事実にだけ着目せず、その後の対応を行うことが重要です。
専門用語は避けわかりやすい言葉で書く
ヒヤリハットの報告書は、新人教育や他部署との情報共有に使用する場合もあります。他にも、当事者や従業員以外といった社外の人が見ることもあるのです。そのため、専門用語は避けわかりやすい言葉で書き、誰が読んでもわかるようにしましょう。
ヒヤリハットが起こる主な原因は4つ
ヒヤリハットが起こる時には様々な原因が挙げられますが、ここではヒヤリハットが起こる主な4つの原因について解説していきます。
5Sが徹底されていなかった
1つ目に、5Sが徹底されていなかったことです。5Sとは職場環境を改善するために行う活動のことであり、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5つから構成されています。5Sを徹底し習慣化することで、職場の安全確保や働きやすい環境の整備につながるのです。
5Sが徹底不足によるヒヤリハットとしては、以下のような事例が挙げられます。
・メモを取りながら歩いており階段を踏み外した
・積み込み作業中に荷台から転落しそうになった
・足元のコードに足を引っかけ転倒しそうになった
5Sが徹底されていないと、上記のようなことが起こりかねません。そのため、5Sにおいて以下の点を意識するようにしましょう。
・整理:必要のない物は処分する
・整頓:必要な物は使用しやすい場所に置く
・清掃:きれいに清掃し併せて点検も行う
・清潔:清潔な環境を維持する
・しつけ:上記4つのSの習慣づけをする
焦りや疲労など心身の不調があった
2つ目に、焦りや疲労など心身の不調があったことです。経験年数に問わず心身の不調があると、普段行えている作業であっても困難をきたすことがあります。さらに、普段なら発見できるような危険につながる出来事も見逃す可能性が高くなります。
そのため、日頃から万全の状態で働けるような環境作りが大切です。ヒヤリハットを防ぐだけではなく、結果として業務効率化につなげることにもなります。
知識やスキルが不足していた
3つ目に、知識やスキルが不足していたことです。特に未経験者や新入社員がヒヤリハットを起こす原因の1つでもあります。また、危険につながる出来事にも気づきにくいことから、ヒヤリハットにつながりやすくなるのです。
対策としては、積極的に知識やスキルを高める機会を提供することです。現場で仕事を始める前にヒヤリハットに関する研修を行うことなどが必要になります。
情報共有やコミュニケーションが不足していた
4つ目に、情報共有やコミュニケーションが不足していたことです。特にチームで仕事をしている場合であると、指示内容の聞き間違えや報連相がしっかり行われていなかったなどが起こると、ヒヤリハットが起こりやすくなります。
業務自体にも影響を及ぼしかねないため、情報共有を行う体制を整えるようにしましょう。さらに、日頃からコミュニケーションをとることを意識することも大切です。
ヒヤリハットの報告を習慣化するには?
ヒヤリハットは報告が必要と言われていても「なかなか習慣化につながらない」などといった声も聞かれます。事故防止につなげるためにも、報告を習慣化することは必要不可欠です。
ここでは、習慣化するための3つの手段について紹介していきます。
報告書の作成を簡単に行えるようにする
そもそも報告することには懸念がないといった声も上がっています。しかし、報告書の作成が手間であることが原因で、結果として報告が習慣化されないといった背景もみられています。
報告書の作成の手間を減らし簡単に行えるようにするとよいでしょう。そのためには、誰でも簡単に報告書を作成できるような工夫が必要です。一例として、報告書のフォーマットを準備すること、記述部分を減らし選択方式を加えるなどがあります。
ベテランが率先してヒヤリハットの報告をする
経験年数の短い従業員であると、中にはヒヤリハットが起こるのは恥ずかしいことであると思っていることがあります。そのため、報告することが心理的なハードルにより妨げられているケースもゼロではないのです。
このような心理的なハードルを下げるためには、ベテランが率先し報告をするとよいでしょう。ベテランが報告する姿勢を見ることで「ベテランの人でも起きることである」「起きたらその都度報告するものである」といった、認識を変化させることにもつながりやすくなります。
ヒヤリハットを報告するメリットを作る
ヒヤリハットを報告するメリットを作ることは、即効性の高い手段の1つとも言われています。具体的には、ヒヤリハットの報告や効果的な対策、改善案を提案した場合に報奨金を与える、報告をすることで人事評価のプラスにするなどといった手段です。
このような手段をとることで従業員のモチベーション向上にもつながります。そのため、報告を習慣化させるきっかけ作りにもなるのです。
ヒヤリハットの報告が必須である3つの理由
そもそもなぜ、ヒヤリハットが起きた際には報告が必須なのでしょうか。その理由は、以下の3つです。
重大事故への予防につながるため
1つ目は、重大事故への予防につながるためです。ヒヤリハットは一度起きると再度同じことが起こる可能性が高くなります。そのため、原因をはっきりとさせることが必要です。そして、原因をはっきりさせた後には検証も行っていきます。
原因を明らかにするだけで終わらせずに検証まで行うことで、次に起こる可能性のある事故を防ぐことができます。検証において課題を発見し具体的な対策を立て、実施することまでつなげていくことが重要です。
知識を共有し定着させるため
2つ目は、ヒヤリハットに伴う知識を共有し定着させるためです。ヒヤリハットの報告は、他の事例に気づくきっかけにもなります。さらに、対策や改善方法について考える際に1人ではなかなか思いつかなかったとしても、他の従業員の助言がヒントになることもあるのです。
また、組織内で知識を共有し定着ができると、従業員間で事故防止に対しての意識が高まりやすくなります。組織全体で事故防止に向けた対策を継続して行っていくためには、知識の共有と定着が必要です。
危険に対しての意識づけをさせるため
3つ目は、危険に対しての意識づけをさせるためです。ヒヤリハットを報告する体制が日頃から整えられていると、「何か危険はないのか?」「実はこの部分は危険なのかな?」と考えるきっかけにもなります。
反対に、ヒヤリハットを報告する体制が整えられていないと、危険に対して意識的に考える機会が少なくなってしまいます。事故防止につなげるためにも、日頃から身近に潜んでいる危険に対して意識づけをすることが重要なのです。
代表的なヒヤリハット対策4選
代表的なヒヤリハット対策として、以下の4つがあります。
KYTトレーニングの実施
1つ目に、KYTトレーニングの実施が挙げられます。KYTトレーニングとは、危険予知能力を鍛える訓練です。このトレーニングを行うことで、現場において危険を予知する能力の向上に期待ができ、重大な事故回避につなげることが可能になります。
また、このトレーニングを行うことで従業員の安全意識を高めるといったメリットにもつながります。さらに、事故につながると予測される原因を細かく探し出すこともできるようになるため、適切な対策を立てることにもつながるのです。
話しやすい職場環境づくり
2つ目に、話しやすい職場環境づくりが挙げられます。そもそも、ヒヤリハットの報告をすると不利益が生じると思われてしまい、結果として報告につながらないこともあります。まずは話しやすい環境を整え、報告したとしても個人に不利益が生じないようにすることが必要です。
そして、日常的にヒヤリハットについて話しやすい職場環境づくりにつなげていくとよいでしょう。ベテランの従業員や管理職などが日常的にヒヤリハットについて話すことで、他の従業員も話しやすい環境となっていきます。
定期的にヒヤリハット報告会を開催
3つ目に、定期的にヒヤリハット報告会を開催するとよいでしょう。定期的に報告会をするといったイベントがあることで、日常的に業務の中で危険を予知する能力を鍛えることも可能です。
また、報告会にて他の従業員や実際に起きた事例を知ることで、ヒヤリハットの予測がしやすくなり、危険回避のための行動にもつながっていきます。
安全教育として研修や講習会を開催
4つ目に、安全教育として研修や講習会を開催することです。研修や講習会では、動画やマニュアルなどの教育ツールを活用し行うとよいでしょう。実際に起こった重大事故を知ることで、自分の立場に置き換えて捉えることができるようになります。
また、研修や講習会を開催する際にはその都度テーマを決めて開催していくことで、効果的に安全教育を行うことが可能です。
業界別に起きたヒヤリハット事例
ヒヤリハットは業界問わずに起きるものです。ここでは、業界別に起きたヒヤリハット事例について紹介していきます。
製造業
・フォークリフト運搬中に歩いている作業員と接触しそうになった
・フォークリフトで荷上げをしている際に転落しそうになった
・ベルトコンベアの清掃中に手が挟まれそうになった
これらは、決められた作業手順を守らなかったことや作業環境の安全対策が不十分なことで起こることが多いです。安全性を意識しながら、作業手順を守ることや作業環境の安全対策をとるようにしましょう。
建設業
・運搬作業中、現場に落ちていた資材につまずき転倒しそうになった
・暗い場所で写真撮影中、後に下がった際に階段に気がつかず転落しそうになった
・ダンプトラックに積込み中に荷崩れが起き、積み荷が運転席側に落ちそうになった
これらは、作業環境の整理・整頓がされていないことや事前に危険個所の確認不足が原因と言えます。また、積込み中の荷崩れは積み荷の重量確認や手順通り作業が行われていなかった可能性も考えられます。
5Sを徹底することや作業手順・重量の基準を遵守するようにしましょう。
接客業
・急いでバックヤードに向かう際に、通路の角で人とぶつかりそうになった
・通路とカウンター前に段差があり、段差を踏み外し転倒しそうになった
・清掃作業中、漂白剤が入った容器に別の洗剤を入れてしまった
これらは、焦りや疲労などの心身の不調や不注意により起きたと考えられます。万全な体調で仕事ができる環境や小さな不注意を防ぐことのできる環境作りを行っていくことが必要です。
運送業
・トラックの荷台とリフトの段差に気がつかずに転落しそうになった
・重たい荷物を上に積んでしまい、下の荷物がつぶれてしまった
・運送中に死角から飛び出してきたバイクと接触しそうになった
運送業では大きなトラックなどを運転することもあり、死角が多いことから大きな事故につながる可能性が高いです。
また、人員不足や積載量の増加に伴い時間に追われ、心理的負担や注意力の低下が起こることもゼロではありません。まずは安全を優先するといった心理的な対策の継続などを行うようにしましょう。
小売業
・店内POP作成時にカッターで指を切りそうになった
・バックヤードの床が濡れており、すべって転倒しそうになった
・脚立を使用し陳列していたところ、脚立から転落しそうになった
上記のような事例では、5Sが徹底されていないことから労働環境が原因で起きていたり、道具の正しい使用方法を理解していなかったりしたことが原因と考えられます。
特に小売業では狭いスペースで作業することが多く、5Sを徹底し作業環境を整えることが重要です。また、道具の正しい使用方法を周知することでヒヤリハットの予防につながります。
医療・看護業
・寝たきりの患者の体位を変える際に、看護師が腰をひねってしまった
・同姓の別患者の薬を準備してしまい、与薬前に薬の間違いに気がついた
・点滴の薬剤投与量の単位の指示間違いに気づき、修正を行った
医療現場においても様々なヒヤリハットが起きています。中には、ケガや医療事故につながりかねないものもあるのです。
特に夜勤帯などといった人員が少なく疲労がみられやすい状況では、一層注意しながら業務にあたる必要があります。
介護業
・利用者を車椅子からベッドへ移動させる時に、介護者が腰を痛めてしまった
・浴室内で滑って転倒しそうになった
・利用者が隣の人の食事を食べてしまった
介護業のヒヤリハット事例では、その原因が様々であり介護環境だけに留まりません。介護者側が原因だけではなく、利用者側が原因となることもあります。
ケガや命に関わる事故につながる可能性があるため、危険の情報共有や安全対策を徹底していく必要があるのです。
ヒヤリハットと関係性の深い「ハインリッヒの法則」とは?
ヒヤリハットと関係性の深いものとして「ハインリッヒの法則」があります。ハインリッヒの法則は別名「1:29:300の法則」とも呼ばれ、労働災害における経験則の1つです。
1件の重大事故の裏には、29件の軽い事故と、事故寸前だった300件のヒヤリハットが存在するというものです。つまりハインリッヒの法則からも、ヒヤリハットが多くなればなるほど重大事故につながる可能性が高いことがわかります。
ハインリッヒの法則も踏まえ、日頃からヒヤリハットが起きたらその情報を把握し、再発防止のために対策を行うことが重要です。
まとめ
この記事では、ヒヤリハットについてや起こる原因、さらにヒヤリハットの報告書作成時のポイントや対策まで解説しました。
ヒヤリハットは特定の仕事や場面に限らず起こるものであり、身近に潜んでいるものです。些細なきっかけが、結果として重大な事故につながりかねません。ヒヤリハットの報告を習慣化させ、内容をお互いに共有し対策を考えるといった取り組みの継続が重要です。
ささいな気づきによって重大な事故の予防につなげられるため、まずは組織内で今回紹介した取り組みなどをぜひ実践してみてください。