人時生産性は経営に必要な指標である
人時生産性は、「従業員1人が1時間当たりどのくらいの成果を得られたか」という生産性を意味する指標です。投入した労働力に対しどれだけの成果が得られたのかが明確になるため、業務効率化を図る際に幅広く用いられ、経営に必要な指標であるとも言えます。
人時生産性は、数値が高くなるほど1時間の中でより多くの生産性が生まれ、利益の拡大につなげることが可能です。また、より価値の高い商品やサービスの提供もできるようになります。
混同されがちな労働生産性とは?
混同されがちな言葉として「労働生産性」が挙げられます。労働生産性とは、「投入した全ての労働力に対しどれだけの利益を得られたか」を図る指標です。そのため、広い意味では労働生産性の一部に人時生産性が含まれます。
この2つの違いとしては、人時生産性が個人に焦点を当てた考え方に対し、労働生産性は組織全体に焦点を当てた考え方という点です。また、労働生産性には、目に見える成果物で評価する「物理的労働生産性」と従業員の生み出している付加価値を評価する「付加価値労働生産性」の2種類があります。
よく似た言葉の人時売上高とは?
よく似た言葉に「人時売上高」がありますが、これは「従業員1人が1時間当たりに生み出した売上高」を示す指標です。人時生産性のような「どのくらいの成果を得られたか」ではなく、「1時間の売上高」にのみに焦点を当てています。
人時売上高を図ることで、「従業員の人員に対し獲得できる売上高の予測」や「達成したい売上に対し必要な労働時間」などを把握することが可能です。人時売上高を適切に管理できると、収益性の向上にもつながります。
人時生産性が必要とされる理由は2つ
人時生産性が必要とされる理由は、以下の2つです。
労働人口の減少
日本では、少子高齢化が進んでおりそれに伴い労働人口も減少しています。そのため、労働力の不足に悩んでいる企業も増えてきています。今後さらに少子高齢化は進むと言われているため、限られた労働力にて生産性の維持・向上が求められています。
限られた労働力にて生産性の維持・向上するためには、人時生産性の活用が必要です。人時生産性により従業員の業務効率化を図ることができると、短時間で効率よく働けるようになり、限られた労働力であっても生産性の維持・向上が期待できます。
働き方改革により生産性の向上が求められている
働き改革による生産性の向上が求められていることも、人時生産性が必要とされる理由の1つです。労働に関する法改正に伴い、時間外労働の上限規制・有給休暇取得義務などが開始され、長時間労働に依存した生産性の向上が難しくなりました。
さらに、働き方も多様化し様々な形態で働く労働者が増えたことから、単純に1人当たりの生産性に焦点を当てることが適切な指標とはなりません。そのため、限られた時間の中で生産性を向上することが求められており、そのためには人時生産性による業務効率化が必要です。
生産性を阻む5つのロスとは?
生産性を阻むものとして、以下の5つのロスが挙げられます。
生産ロス
生産ロスとは、商品やサービスを生産する過程でムダな作業や時間が発生することです。
具体的には、製造業であれば商品を運搬する時間が必要以上に長くなることや、設備故障による業務停止や不良品の修繕などが挙げられます。また、広告業やIT業などでは不具合の修正や不要な修正が該当します。
このような生産のロスを改善するためには、ロスの可視化が必要です。可視化することで、生産ロスが生じている業務が把握しやすくなります。
全てのロスを事前に防ぐことは難しいものの、生産する過程でムダな作業や時間が生じていないか意識できるようになります。
管理ロス
管理ロスとは管理する際に発生する待機時間のことであり、管理部門が作成した計画が不十分な時や突発的な問題の発生が原因で起こります。
例を挙げると、業務に使用する機械が故障し修理待ちしている状態などです。他にも、人員管理の不手際により業務が適切に実施できないことも含まれます。
また、管理ロスは取引先などの外的要因により生じるケースも少なくありません。どうしようもないケースもあるため、計画の立て直しに苦戦することもあります。
動作ロス
動作ロスとは、従業員のムダな動きや設備のレイアウト不備などから発生する時間的なロスです。これは、従業員の教育不足により効率的に業務を実施できず時間がかかったり、設備のレイアウト不備によりムダな動線が生まれたりすることで起こります。
余分な時間がかかることは、生産性の低下にもつながりかねません。動作ロスを防ぐには、従業員への教育や設備のレイアウトの見直しが必要です。
手動ロス
手動ロスとは、ロボットや機械にて自動化できる業務をわざわざ人の手で行うことで発生する時間的なロスです。
Excelで管理できる情報を手作業で集計する、AIやロボットに任せるべき業務を人が行っている場合は手動ロスに該当するため、見直しする必要があります。
AIやロボットに業務を任せると別の業務に時間を使用でき、生産性の向上にも期待できます。しかし、業務を自動化するにはシステム導入が不可欠です。
初めのうちは導入費用や教育時間の負担が増えますが、長い目でみると費用対効果は高くなるため、必要な投資であるとも言えます。
編成ロス
編成ロスとは主に製造業で多く発生するロスであり、流れ作業の中で設定の不良によりミスやムダな時間が発生することです。
例としては、作業の所要時間が長くなり次の作業を担当する従業員の待ち時間が長くなってしまうことが挙げられます。編成ロスを防ぐためには、あらかじめムダが発生しないような編成と設定の実施が重要です。
人時生産性を向上させるポイントは5つ
人時生産性を向上させるポイントとして、以下の5つが挙げられます。
適切な人材配置をする
人時生産性を向上させるには、適切な人材配置が重要です。適材適所という言葉があるように、従業員の特性や適正によって仕事の相性に差がでることも少なくありません。合わない業務を無理に担当させると、本来の能力を発揮できない可能性も考えられます。
そこで、従業員の特性や適性を把握した上で人材配置することで、業務にかかる総労働時間を減らすことが可能です。従業員の能力をそれぞれ発揮できる配置を整えるようにしましょう。
業務を効率化し労働環境を整備する
業務を効率化し労働環境を整備することも、人時生産性の向上につながります。まず業務内容を洗い出し、業務の停滞や生産性を低下させてる原因の把握を行いましょう。原因を把握し対応を講じることで、業務の効率化が期待できます。
また、従業員の労働環境の整備も必要です。働きやすい環境であるか確認するために、人事部門と従業員の面談やアンケートの実施などにて状況を把握し、労働環境の整備にも取り組みましょう。
従業員のモチベーションを向上させる
人時生産性を向上させるためには、従来の業務方法を変更せざるを得ない場面も出てきます。その際に、従業員に丁寧に説明し認識を共有できていないと、従業員のモチベーションの低下にもつながりかねません。本体の能力が発揮できず期待していた結果を出すことも難しくなり、人時生産性を低下させる原因にもなってしまいます。
従業員のモチベーションを向上させるためには、人事評価制度の見直しや定期的なミーティングを設けることが有効です。
従業員のスキルアップを支援する
従業員のスキルアップを支援することも、人時生産性の向上に効果的です。スキルアップの支援方法は様々ありますが、定期的に従業員の能力に合わせた社内研修や、実践の中で業務を覚えていくOJT等のコーチング強化が例として挙げられます。
このように従業員のスキルアップが実現することで、限られた時間の中で能力を発揮することが可能となります。その結果、人時生産性の向上にもつながってくるのです。
ツールを利用する
ツールを利用すると、業務効率化ができるため人時生産性を向上させることに期待できます。これまで人の手で行っていた業務に対しツールを利用することで、作業時間の短縮ができヒューマンエラーや修正を減らすことも可能です。
また、人時生産性には業務の停滞や生産性を低下させている原因を把握し、業務を標準化することも重要です。業務を標準化するためにはマニュアル作成が必要であり、その際にはツールを利用した作成をおすすめします。
人時生産性の向上にはマニュアル博士もおすすめ
出典:
https://manual-hakase.com/
人時生産性には業務効率化や標準化をすることも効果的です。業務効率化や標準化するための方法の1つとして、マニュアル作成が挙げられます。しかし、マニュアルを一から作成すると、作成者のスキルによって品質の差が出ることや作成時間がかかることがデメリットです。
そこで、マニュアル作成ツールを利用することで、作成者のスキルに左右されず作成時間を大幅に削減しマニュアル作成が可能になります。マニュアル作成ツールといっても様々な種類がありますが、その中でも「マニュアル博士」の利用がおすすめです。
マニュアル博士はマニュアルを作成するだけではなく、共有や発信といった管理までできるツールです。動画式のマニュアル作成が可能ですが、直感的に操作できるため作成者のスキルによって品質の差が出ることはありません。
作成時間が大幅にかかることもなく、簡単にマニュアル作成・管理まで一連の流れを網羅しているツールです。マニュアル作成ツールの導入を検討されている方は、ぜひ試してみるとよいでしょう。
人時生産性の向上に取り組んだ事例
ここでは、人時生産性の向上に取り組んだ2つの事例について紹介します。
株式会社滝の湯ホテル
株式会社滝の湯ホテルが運営する「ほほえみの宿 滝の湯」では、日々の人時生産性のバラつきを考慮せずサービスを外注していたことや人手不足の部署への応援体制が整備されていない環境が課題となっていました。
そこで、人時生産性の向上にむけて以下のような取り組みを実施しました。
・部署の適正人員基準を明確にし、入り込み客数から必要な人員を算定しシフト編成
・スキルマップを作成しマルチタスク化の取り組みにて、少人数運営を可能にした
・適正人員配置のコントロールとマルチタスク化によりサービスの外注費の抑制
人員を最適化したことで、外部委託していた業務の一部を従業員が担当できるようになり、サービスの外注コストの削減となっています。また、業務の内製化ができベテラン従業員の接客業務が増加し、品質の向上がみられたのです。
株式会社さえき
株式会社さえきは、東京都国立市に本社を構え総合食品スーパーマーケット事業をし、多摩地区を中心に店舗展開しています。バックヤード業務の生産性向上をテーマに、以下のような取り組みにて人時生産性の向上を実施しました。
・バックヤードにおける商品の停滞をなくし、カゴ台車数やムダな歩行などの削減
・キャベツカット作業の流れを改善や配置の見直しにより1人当たりの生産性を向上
・作業時間を短縮させた内容で作業を標準化させ、帳票を導入
上記の取り組みにて売上の増加や生産性の向上といった具体的な改善効果が得られました。従業員のモチベーション向上にもつながり、人時生産性の向上が実現できたという事例です。
まとめ
今回は、人時生産性が求められる理由や向上させるポイント、人時生産性の向上に取り組んだ事例について紹介しました。企業は今後限られた労働力の中で結果を出す必要性が迫られており、人時生産性は必要不可欠です。
これから人時生産性の向上に取り組む方は、取り組む際のポイントや実際の取り組み事例を参考にしながら行ってみてください。