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HACCPとは何?食品衛生の新たなスタンダードについて徹底解説

HACCPとは何?食品衛生の新たなスタンダードについて徹底解説

HACCP(ハサップ)とは、食品の衛生管理手法で、近年日本でも注目されるようになりました。
実際の業務でも実施されている方もいらっしゃるかもしれませんが、HACCPとは具体的にどのようなルールがあるのでしょうか。また、どのような事業者が実施しなければならないのでしょうか。

そこで本記事では、HACCPの概要や従来との違い、対象の事業者やメリット、具体的な衛生管理方法などを解説します。この機会によく学んでおきたいと思われる方は必見です。

HACCP(ハサップ)とは

「HACCP」を訳すと、「Hazard(危害),Analysis(分析),Critical(重要),Control(管理),Point(点)」になります。その後、徐々に世界中に広がり、現在は衛生管理の国際的な基準として活用されています。

HA(Hazard,Analysis)とは、危害要因分析を指します。食品の製造過程で混入して危険因子になる可能性がある物(有害な微生物や化学物質、金属などの異物)を予測して、未然に防ぐ方法を明確にルール化することを表しています。
CCP(Critical,Control,Point)とは、重要管理点を指します。危険要因分析に基づき、食品加工の過熱や冷却、包装の管理を徹底し、健康に影響がない程度に確実に除去・減少させていきます。

HACCPは食品の製造工程を細かく分け、工程ごとにリスク管理を明確化します。そうすることで、万が一問題が発生しても、どの工程が原因なのかが分かりやすくなり、問題のある製品の販売を停止するなど迅速な対応をとれるようになります。

日本では主に、1995年から製造基準がある業種を対象にHACCPが導入され始めていました。法整備がされたのは2018年(平成34年)6月で、「食品衛生法」の改正法案が可決して始まりました。
以後、2020年(令和2年)の6月から、原則として全ての食品を扱う事業者を対象に、HACCPによる衛生管理が義務化されました。
2020年(令和2年)に法律が施行されてから1年を猶予期間とし、2021年(令和3年)6月からはHACCPの導入や運用が完全に義務化されています。

HACCPのみでなく、食品衛生に対する法整備が行われたのには、以下の様な背景があります。

・食品衛生法の改正から15年経ち、食品衛生における環境や国際状況が変化していた
・国内で発生する食中毒事故の件数が減っておらず、発生率を減らす対策への必要性が生じた
・東京で開催されたオリンピック・パラリンピックや海外向け食料品の輸出促進を目指して、世界基準の食品衛生基準の作成が求められた


このような背景から食品衛生管理の必要性が高まり、HACCPの導入が義務づけられるに至りました。

HACCPは従来の衛生管理方法と何が違うか

HACCPが導入される以前の、食品衛生管理の方式には以下の問題がありました。

・サンプルとして一部の製品のみを検査しており、サンプルに選ばれなかった製品に問題があった場合、それが市場に流通してしまう可能性があった。
・抜き取り検査は後工程で行われるため、不良品や衛生問題が発見された場合、既に多くの製品が製造・包装されており、これらを廃棄する必要が生じ、時間とコストが大幅に増加していた。
・抜き取り検査は問題の発生原因を特定しづらかった。


上記の要因により、再発防止策の策定が難しくなり、同様の問題が繰り返されるリスクが高まっていました。
このような問題点を踏まえHACCPは、製造プロセス全体を監視し、各工程で潜在的な危害を分析し、それを防ぐための重要管理点を設定しました。

まず、全製品が監視対象とし、抜き取り検査のようなサンプル不足の問題を解消しました。すべての工程を監視する製法では、製品の一貫した安全性が確保され、市場に出回る不良品のリスクが大幅に低減しました。これにより、問題が発生してからの廃棄や再製造のコストも削減できるようになっています。
さらに、各工程での重要管理点を監視するため、問題が発生した場合でもその原因を特定しやすくなりました。これにより、迅速な対策と再発防止策の実施が可能となり、製造プロセスの改善が継続的に行えるようになりました。

HACCP義務化によって対象となる事業者の範囲

HACCPによる衛生管理の制度化は、2021年6月1日から始まっています。原則として、すべての食品事業者がHACCPに基づく衛生管理をしなければなりません。
食品事業者とは、食品の製造や加工、調理、販売など、食品に関連するすべての業種を含みます。原則としてすべての食品関連会社が対象ですが、実施に当たってはその事業規模により、2つの異なるパターンに分類されます。

義務化対象となる事業者の範囲

「HACCPに基づく衛生管理」義務化の対象事業者は、以下のとおりです。

・大規模な食品事業者
・大規模な畜場の設置者と管理者
・大規模な畜業者
・大規模な食鳥処理場の業者(認定された小規模食鳥処理業者を除く)


上記の事業者は、HACCPの「7原則12手順」に従い、厳密な衛生管理を実施しなければなりません。
 

ルールに準じる必要がある事業者

また、「HACCPに基づく衛生管理」の対象にはならないが、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を行う対象になる企業があります。このカテゴリには以下のような食品関連事業者が該当します。

食品の製造や加工施設に併設された店舗で小売販売を行う業者、例えばお菓子の製造販売業や魚介類の販売業者です。
また、飲食店や喫茶店、病院や学校以外の集団給食施設など、食品を調理して提供する事業者も該当します。さらに、調理機能を備えた自動販売機も対象です。

その他にも、食品の製造・加工・貯蔵・販売に従事する従業員が50人未満の事業場や、容器包装された食品を貯蔵・運搬、販売する事業者、そして食品を分割して容器包装し販売する事業者も含まれます。
具体的な例としては、個人経営の飲食店やコーヒーの量り売りをしているお店、洋菓子店などが挙げられます。

このような比較的小規模な食品事業については、簡略化された衛生管理に基づくHACCPの実施が認められています。

義務化対象外の事業者

食品事業者全般にHACCPの実施が求められる一方で、特定の事業者はその義務から除外されています。以下のような事業者がその対象となります。

まず、農作物を生産する農家や漁業に従事する漁師などの食品の採取業者です。これらの業者は、食品の直接的な加工や製造に関わらないため、HACCPの対象外とされます。また、公衆衛生に対する影響が少ないとされる事業者も、HACCPの義務化から除外されています。
具体的には、食品や添加物を輸入する業者、常温で保存できる食品や添加物を貯蔵・運搬する業者、長期保存可能な包装食品を販売する業者、そして器具や容器包装の輸入および販売を行う業者が該当します。さらに、1回の提供食が20食未満の学校や病院以外の集団給食施設も、HACCPの義務化対象外となります。

これらの事業者は、HACCPに沿った厳格な衛生管理を行う必要はありませんが、一般的な衛生管理の実施は引き続き求められます。公衆衛生に与える影響を最小限に抑えるため、基本的な衛生管理を行うことが重要です。

ネットショップやECサイト事業者

ネットショップで食品を扱う事業者にとって、HACCPが必要かどうかは重要な関心事でしょう。
結論として、HACCPの適用は販売形態に依存しません。ネットショップであっても、実際に食品の製造や加工を行い、それを販売する業態ならば、HACCPに基づく衛生管理が求められます。

一方で、公衆衛生への影響が少ないとされる営業形態は、HACCPの義務化の対象外です。
具体的には、すでに製造され包装された状態の缶飲料やスナック菓子、菓子などを仕入れてネットショップや店舗で販売のみを行う場合には、HACCPの対象外になります。このような事業をおこなう場合は、一般的な衛生管理基準を守って事業を行えばよいとされています。

つまり、ネットショップやECサイトであっても、取り扱う食品の種類や業務内容によって、HACCPの適用が必要かどうかが決まります。食品の製造や加工に直接関わる場合は、HACCPを遵守する必要がありますが、既製品の販売のみであれば、その義務はありません。
このように、事業内容によって異なる対応が求められることを理解しておくことが大切です。

HACCP導入を無視したらどうなる?

食品業界では、HACCPの導入が義務付けられています。しかし、この義務を無視した場合にはどうなるのでしょうか。
実は、まだHACCPを実施しなかったことによる具体的な罰則は定められていません。ただし、HACCPの実施を怠った場合、衛生管理に問題があると見なされ、改善指導や営業停止などの行政処分が科される可能性があります。

さらに、HACCPを実施しないこと自体には罰則がなくても、食品衛生法や地方自治体の条例違反として罰則が課せられる可能性もあります。
法的にはHACCPの導入が義務化されていますので、関連事業者は罰則を受けることなく業務を続けるためにも、HACCPの実施を進めるべきです。

HACCPによる衛生管理は具体的に何をする?

HACCPによる衛生管理が日本でも基準となったことによって、「HACCPに基づく衛生管理」または「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」を実施しなければならなくなったのはわかりました。
ではここからは、具体的にどのような衛生管理基準があるのか説明していきます。

義務化対象となる事業者がすべきこと

HACCPに基づく衛生管理で重視する部分や計画するプランは、取り扱う食品によって異なります。本章では、冷凍食品製造の衛生管理を例に、「HACCPに基づく衛生管理が必要な事業者」がすべき具体的な対策を紹介していきます。
厚生労働省が出している、「冷凍食品製造事業者向け HACCPに基づく衛生管理のための手引書」によると、チェックポイントとして以下のような項目があげられています。このような項目から、事業内容に合わせてHACCPプランを作成していきます。
 
衛生管理項目例
1 施設や設備の衛生的な運用や管理
2 従業員の衛生管理
3 水や氷、蒸気の管理
4 薬剤の管理
5 虫やネズミなどの防除管理
6 廃棄物や排水の衛生管理
7 原材料や製造中の食品に投入された原材料の管理
8 製品出荷の管理
9 アレルゲンの管理
10 外来者や入場者の管理

HACCPプランは以下の手順で作成します。

1. 問題となる要因の洗い出しとリスクの特定
2. 評価結果に基づく適切な管理手法や文書化の設定
3. 科学的根拠に基づいた規制基準の設立
4. 規制基準の監視とシステムの構築
5. 基準逸脱時の改善手段の設定
6. HACCP計画の効果検証
7. 記録と保管手順の確立


HACCPプランの作成手順の原則は、どの事業者でも同じですが、どのような要素を危険要因として認識するかなど、注目すべき衛生管理部分は異なってきます。

ルールに準じる必要がある事業者がすべきこと

「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が重視する部分や計画するプランは、以下のような順をおって管理を実施すればよいとされます。

1. 手引書から、業種ごとのリスク要因を把握する。
2. 手引書のテンプレートを利用して、衛生管理計画を策定し、必要に応じて手順書を作成する。
3. 策定した衛生管理計画の内容を従業員に周知する。
4. 手引書に規定された記録形式で、実施状況を文書化する。
5. 手引書で推奨されている期間中は、記録を保管する。
6. 過去の衛生管理記録を定期的に点検し、必要に応じて衛生管理計画や手順書を見直す。


したがって、厳密なHACCPの実施は求められないものの、適切な手引書を参照して衛生管理計画を立案し、実行し、記録することが必要です。

中小事業者向けの食品製造者の衛生管理手順については、以下から確認できます。
参考:厚生労働省ホームページ HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書

HACCPを構築するための7原則12手順

「7原則12手順」は、HACCPの構築において基本的な指針です。この手順は、Codex(国際食品規格)委員会によって1993年に策定されました。
 
原則1~7を進めるための準備
1 HACCPのチーム編成
2 製品説明書の作成
3 意図する用途及び対象となる消費者の確認
4 製造工程一覧図の作成
5 製造工程一覧図の現場確認
 
原則1~7をふまえたHACCPプランの作成
6 危害要因分析の実施(ハザード/HA)(原則1)
7 重要管理点(CCP)の決定(原則2)
8 管理基準(CL)の設定(原則3)
9 モニタリング方法の設定(原則4)
10 改善措置の設定(原則5)
11 検証方法の設定(原則6)
12 記録と保存方法の設定(原則7)

※Codex(コーデックス)はFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が合同で設立した国際食品規格委員会及び食品規格のことを指す。日本のみならず、世界187ヶ国とEUが加入している組織の事。

HACCPの導入については、厚生労働省の作成した動画「HACCP導入の手引き」でも具体的に紹介されていますので、こちらの動画を確認しながら導入を進めていくとスムーズでしょう。

HACCPの主な認証機関

HACCPを実施するには、手順だけでなく、実際の運用状況も証明する必要があります。その際には、第三者機関の認証を受けることが役立ちます。HACCPの主な認証機関には以下があります。

・厚生労働大臣が承認する総合衛生管理製造過程
・日本食品加工協会
・大日本水産会
・大阪版食の安全安心認証制度


認証を取得することで、取引先や消費者からの信頼を高めることができます。また、HACCP認証が必須となる企業との取引や、HACCP認証が要求される国への食品輸出が可能になります。
ただし、HACCP認証には時間や費用がかかるだけでなく、定期的な審査も必要です。そのため、認証を検討する際には、コストと効果のバランスを慎重に考慮することが不可欠です。

HACCPを導入するメリットとは?

HACCPの導入は、制度化されている事業者にとっては義務ですが、基準を設けることによって期待できる効果もたくさんあります。本章では、HACCP導入によるメリットを紹介します。

衛生管理に対する意識が向上する

HACCPの導入により、企業はHACCPチームを組織し、衛生意識を高める取り組みをリードします。この取り組みにより、従業員全員の衛生管理に関する知識と意識が向上し、食品事故のリスクが減少します。
また、従業員がチームとして協力することで、より効果的な衛生管理が実現されます。

生産効率が上がる

HACCPの採用により、食品製造の各段階での衛生管理が改善され、生産効率が向上します。初めは新たな規則や手順に慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、将来的には誰もが同じ品質の食品を製造できるようになるため、結果として生産効率が向上します。
また、HACCPの導入は従業員の衛生意識を高める効果もあります。全てのスタッフが衛生管理の重要性を理解し、遵守することで、品質の向上と生産プロセスの効率化が図られます。

製品の不備に対して素早く対応ができる

HACCPの導入により、製品の不具合発生時に迅速に対応できます。事前に製造から加工工程での危険因子を分析し、対策を立てることで、不具合が発生してもその原因を予測し、即座に対処できます。さらに、原因を特定し規則を改善することで、衛生管理の水準を向上させることも可能です。
また、HACCPの導入は従業員の訓練と意識向上にも貢献します。従業員が製品の安全性と品質に対する責任を理解し、適切な衛生管理手順を遵守することで、製品の不具合や事故を未然に防ぐことができます。

クレームや製品による事故が減る

クレームや事故は、食品業界における大きな懸念事項です。しかし、HACCPの導入により、製造工程を段階的に管理することが可能となり、危険因子の混入や汚染を防ぐ対策が徹底されます。その結果、クレームや事故の発生が減少し、食品事業者にとってのリスクが軽減されます。
また、HACCPの導入は消費者の信頼を高めることにもつながります。消費者は安全な食品を求める傾向があり、HACCPの導入はその期待に応えることができます。品質管理の徹底はブランド価値の向上にもつながり、競争力の強化に役立ちます。

衛生管理力をPRできる

HACCPの導入は、企業の衛生管理を向上させ、そのPR力を高める大きな機会です。国際基準に準拠することは、企業価値を高め、取引先からの信頼を勝ち得るだけでなく、優秀な人材を獲得する際にも有利です。
また、HACCPのマニュアルを活用すれば、具体的な衛生管理について簡潔に説明でき、資料作成の手間も省けます。さらに、HACCPの導入は業界内での競争力を強化することにもつながります。

顧客は安全な製品を求める傾向があり、HACCP認証を取得している企業はその要求に応えることができます。これにより、顧客からの信頼を高め、新規顧客の獲得も期待できます。

海外向けなどの販路が拡大する

HACCPの導入は、取引先や販路の拡大に繋がる可能性があります。将来的には、HACCPを導入した食品事業者が求められることが増えるでしょう。
また、HACCP認証を取得することで、海外市場への進出も円滑になるかもしれません。HACCPの導入は新たなビジネスチャンスを生み出すことができるため、障壁ではなくむしろ成長の機会となるでしょう。

まとめ

本記事では、HACCPの概要や従来との違い、対象の事業者やメリット、具体的な衛生管理方法などを解説しました。ぜひ内容をよく理解して、業務に活かしてみてください。

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