ガイドラインとは「指針・指標」を示した文書
ガイドラインとは、国が定めた法令や企業の組織運営などにおける「指針・指標」を示した文書のことです。業務手順や工程が具体的に書かれているマニュアルや手順書などとは違い、抽象的な表現で書かれています。
そのため、ガイドラインに書かれた指針や指標を達成する際は、マニュアルや手順書などでその方法が示されない限り、個人の判断に委ねられるのも特徴です。また、ガイドラインはビジネスの場に限らず医療や法律など様々な分野でも活用されています。
手順書との違い
手順書との違いとしては、書かれている内容の具体性が挙げられます。手順書は誰が業務を担当しても同じ質の業務ができるように、1つの業務に対する手順や工程を具体的に記載した文書です。手順書を元に業務に取り組むことで、誰が担当しても同じ結果になります。
そのため、最終的な目標やゴールのような役割のガイドラインとは違い、手順書は目標やゴールに向かうまでの具体的な方法が書かれているといった点が違います。
マニュアルとの違い
マニュアルとの違いは、手順書と同様に書かれている内容の具体性です。ガイドラインには指針や指標が書かれ、マニュアルには具体的な手順やルールなどが書かれています。
そのため、マニュアルに沿って取り組むとガイドラインよりも制約が多くなりますが、同じような結果が得られるのが特徴です。反対に、ガイドラインは実際の行動は個人の判断に委ねられるため、得られる結果は個々で異なります。
手順書やマニュアルとの違いを意識すべき3つの理由
手順書・マニュアルとの違いについて紹介しましたが、なぜ違いを意識すべきなのでしょうか。その理由として以下の3つが挙げられます。
資料の選択を誤ることを防ぐため
ガイドライン・手順書・マニュアルといった資料の選択を誤ることは、欲しい情報を得られない可能性があります。それぞれの意味や特徴を理解していないまま読み進めると、「なぜこの資料を選択したのか」「この後はどのような行動をとるべきか」と混乱する可能性も少なくありません。
例えば、業務手順を知りたいのにガイドラインを読んでしまったという状況になると、具体的な業務手順が理解できず、時間も無駄になります。このように資料選択を誤ることを防ぐために、それぞれの資料の違いを意識することが重要です。
正確な資料作成をするため
ガイドライン・手順書・マニュアルそれぞれの違いを知らずに資料作成すると、読み手が理解しにくく曖昧な資料が作成されてしまいます。例えば、ガイドラインを作成するはずが具体的な業務手順まで記載してしまうと、完成してもガイドラインの役割を果たせなくなります。
また、正確な資料でないと読み手の理解が進まず、作成した資料が活用されない場面も少なくありません。ガイドライン・手順書・マニュアルを正確に作成するためには、それぞれの違いを理解した上で資料を作成しましょう。
目的に沿った資料作成をするため
それぞれの資料を作成する際には、目的を明確にした上で作成されます。そのため、違いを知らずに作成してしまうと目的に沿った資料が作成できず、読み手のニーズも満たせなくなります。完成しても活用できないことから作り直す必要も出てくるかもしれません。
ガイドライン・手順書・マニュアルの違いを意識することで、目的に沿った資料作成が可能です。また、必要な項目の漏れを防ぐこともでき、読み手に活用される資料となるでしょう。
ガイドラインは業種ごとに意味が変わる
ガイドラインと一言でいっても、業種ごとに意味が変わります。ここでは、業種ごとのガイドラインの意味について解説します。
医療
医療におけるガイドラインは、診療や治療方法、医薬品などと分野ごとに数多くあります。これらのガイドラインは最新の臨床研究の結果に基づいて作成されており、その時点で最善な方法などが書かれているため、医師や医療従事者にとって重要なツールです。
例を挙げると、医薬品に関する内容であると品質や有効性などの最先端の情報が書かれています。また、診療に関する内容であれば患者向けにもわかりやすく作成されたものもあり、患者支援として意思決定の判断材料にも活用されています。
法律
法律に関するガイドラインは、法律の下に位置づけられています。そして、ガイドラインよりも上位にあるのが、「法令」「基準」です。法令は国民の権利義務を定め、基準は政府や国際機関などが定めています。
法律の内容に沿って作成されるのがガイドラインであり、自主的に従うことが推奨されているものです。法律のように厳守が義務づけられているわけではありませんが、義務的ルールの基準として運用を求めている場合も少なくありません。
ビジネス
ビジネスにおけるガイドラインは、仕事を進める際の基準となる指針を意味しています。企業など組織に所属する従業員や組織自体に、望ましい行動や運営の方向性を示したり、守るべき基準として一定の制約を持たせたりする場合もあります。
具体的な例としては、個人情報の漏洩を防ぐための個人情報保護法に基づくガイドラインやメディア広告に掲載する際の守るべきルールなどです。他にも、生産性向上に向けた具体的な手法などを紹介したものもあります。
行政
政府機関や地方自治体などの行政では、市民や企業に対する様々なガイドラインがあります。これらのガイドラインは、専門家の知見や法令などに基づきビジョンやルールを明確に示していることから、効果的かつ安全に取り組みを促進することが可能です。
例えば、新しい働き方の1つであるテレワークを導入する際に、企業にむけたテレワークの導入方法や基本知識などをまとめたガイドランを提供しています。このように、国民や企業の活動支援に活用されるケースもあります。
デザイン
デザイン業界においても、ガイドラインの作成は欠かせないものとなっています。特に情報伝達が複雑になりやすい部分では、ガイドラインがあることで品質の担保や制作コストの削減などにつなげることが可能です。
また、デザイン業界ではチームで業務を担うことが多く、個々が好き勝手にデザインを作成してしまうと完成したものがユーザーにとって使いにくいものになってしまいます。
このようなことを防ぐためにも、デザイン作成にあたっての指針が必要なのです。さらに、近年ではUIやUXなどの分野でもガイドラインが用いられることが増え、サービス開発においても大きな役割を担っています。
ガイドライン5つの具体例
ここでは、ガイドラインの具体例について5つ紹介していきます。
情報セキュリティ対策のガイドライン
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)から公開されているのが、中小企業にむけた情報セキュリティ対策のガイドラインです。経営者が認識し実施すべき指針や、実際に対策を実践する際の手順や手法がまとめられています。
ITの活用が広がる一方、サイバー攻撃の巧妙化によりセキュリティリスクは高まるばかりです。ITを活用する中小企業が情報セキュリティ対策に取り組むことで、社会全体のセキュリティリスクを減らすことに期待し作成されています。
出典:IPA独立行政法人情報処理推進機構-
中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン
個人情報保護のガイドライン
個人情報保護のガイドラインは、個人情報に対する考え方や情報の管理方法などといった法律に従うための判断基準や方向性などを示しています。また、各省庁や自治体から個別に個人情報保護のガイドラインが出ており、それぞれの分野の特徴を考慮して作成されています。
例を挙げると、金融庁が作成した個人情報のガイドラインです。銀行や証券会社などの金融機関において、個人情報を適切に取り扱うための指針・指標となっています。
出典:金融庁-
金融分野における個人情報保護に関するガイドライン
生産性向上のガイドライン
近年、生産性の向上が重要視されるようになり、特に中小サービス事業者は生産性の向上が必須の課題とも言われています。生産性向上のガイドラインといっても業種ごとに内容は異なりますが、どのように生産性の向上を目指すべきか指標や指針が書かれている点は同じです。
例えば、介護サービス事業者を対象としたものであれば、従業員1人辺りの労働時間を増やさずに生産性を向上させるために作成されたものです。業務改善の基礎的な知識と事例をもとに生産性の向上に取り組める内容となっています。
出典:厚生労働省老健局-
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
適正広告のガイドライン
適正広告のガイドラインとは、広告の表現が誤解を招くような内容や差別表現が含まれないように基準として示したものです。ガイドラインがあることで満たされていなければ、これを根拠に広告の差し止めや掲載拒否などの対応ができます。
適正広告のガイドラインも業種ごとに様々ありますが、例えば日本化粧品工業会より出されている化粧品等の適正広告ガイドラインがあります。これは、消費者が化粧品に対し正しく理解し、併せて信頼を得ることを目的とし作成されたものです。
出典:日本化粧品工業会-
化粧品等の適正広告ガイドライン
長時間労働と職場環境改善のガイドライン
厚生労働省や国土交通省では、長時間労働と職場環境改善を目的としたガイドラインを作成しています。このガイドラインは、主にトラック運転者にむけたものです。他の業種と比べても長時間労働の実態があり、労働基準関係の法令違反が多くみられています。
さらに、労災支給決定件数が最も多いことから、労働条件や安全衛生の確保や改善が課題となっています。このようなことから、トラック運転事業者・荷主・行政といった関係者が一体となり、長時間労働と職場環境改善を目指すことを目的として作成されました。
出典:国土交通省-
長時間労働と職場環境改善のガイドライン
ガイドライン作成時に意識すべき3つのポイント
ガイドライン作成時に意識すべきポイントとして、以下の3つがあります。
ガイドラインを作成する目的を明確にする
ガイドラインを作成する時には、まず作成する目的を明確にすることが必要です。誰に向けたものであるのか・何のために作成するのか明確にします。そして、ガイドラインのテーマや問題に対する解決方法や対応方針などといった、方向性やルールを大まかに決めることも必要です。
これらを明確にし決めることで、ガイドラインの役割や記載する範囲を決められ、曖昧な内容になることを防げます。また、読み手の理解を促進させるためにも、目的を明確にした上でガイドラインの作成が重要です。
内容は具体的に記載せず読み手の判断に委ねる
ガイドラインは、具体機に書かれているマニュアルなどとは違い、最終的な目標やゴールという役割を担っています。読んだ後の行動については読み手の判断に委ねており、どのように行動すべきか考えさせるものです。
そのため、ガイドラインの内容を具体的に書く必要はありません。あくまでも最終的な目標やゴールを示す程度にしましょう。読み手自身が自主的に考えたり、問題を解決したりする能力を高められます。
定期的に内容を見直す
ガイドラインはマニュアルなどと同様に、完成したら終了ではありません。ガイドラインを実施に活用し得られた効果を元に見直しや、関連法令や使用するツールなどの変化が発生するとその都度更新が必要です。
また、見直しをする際には実際に活用している従業員などの意見を反映することで、さらに活用しやすいガイドラインとなります。正確さを維持するためにも古い内容がないか定期的に見直しし、その都度最新の情報に更新しましょう。
まとめ
今回は、ガイドラインとはどのような文書なのか、作成時に意識すべきポイントや具体例までご紹介しました。ガイドラインはあくまでも目指すべき目標やゴールを記載した指針・指標です。具体的に記載せず、読み手の判断に委ねるようにします。
また、手順書やマニュアルとは違うものでありその違いを理解することが必要です。これからガイドライン作成に携わる人は、これらの違いやガイドラインの役割を把握した上で、作成に取り組んでください。